活動日誌−東奔西走

【11.01.17】 野村武文議員の会派視察レポート

東京都世田谷区の24時間随時訪問介護サービスと千葉県野田市の公契約条例について

  日本共産党議員団の行政視察にかかる所感について

                        


       2011年1月17日
                                日本共産党議員団 
                                 野 村 武 文 

 日本共産党議員団の行政視察は、2011年1月11日から12日までの2日間の日程でおこないました。視察先は、東京都世田谷区と千葉県野田市の1区1市です。
 その視察の所感について、下記のとおり報告いたします。
                      記
1  東京都世田谷区の24時間随時訪問介護サービスについて

 東京都世田谷区は、面積58.08km(刈谷市の50.45kmに対し1.15倍)のところに人口835千人(同145千人に対し5.76倍)という大都市の人口密度となっている。高齢者人口は、154千人、要介護・要支援認定者数は、29,756人、1号被保険者の要介護1〜5は、21,380人である。月間の介護給付実績(2010年5月)33億円余となっている。
24時間随時訪問介護サービスの対象となる要介護1〜5居宅介護支援者は、11,918人で、そのうち夜間対応型訪問介護342人で2.9%に当たる。コールには、200人の対象者がいないと採算割れするとのことで、300人以上を目指しているとのことだが、実績としては、300人を超えているのである。
すごいことだと敬意を表したい。そこで、順次内容をみていくことにする。
 (1) 事業の経緯は、どのようなものであろうか。
 世田谷区では「高齢者が住み慣れた地域で、安心して暮らし続けられる地域社会の実現」をめざし、2004年度(平成16年度)から全国に先駆けて区単独事業としてナイトケアパトロール事業を実施されたとのことである。その後、2006年度(平成18年度)の国の介護保険制度改正により、地域密着サービスとして夜間対応型訪問介護が創設された。
 2008年度(平成20年度)には、「24時間随時訪問サービス等検討委員会」を設置し、24時間の切れ目ない随時訪問サービスのニーズ等について広く調査・研究を行い、「できる限り在宅で暮らし続けたい」と願う高齢者が大多数であること、そのための条件としては、「必要な時にいつでもヘルパーが訪問してくれること」であることが明らかになった。
 この成果をふまえ、2009年(平成21年)4月から、区では、昼間の随時訪問サービス利用料の9割を独自に補助する事業を開始したとのことである。この調査では、この昼間の随時訪問サービスと、2009年(平成21年)4月の報酬改定により新設された緊急時間訪問介護加算の利用状況をアンケート形式で尋ね、それぞれの事業の違いについて分析を行ったとのことである。
 その結果、サービス提供責任者の労力に着目して創設された「緊急時訪問介護加算」は、訪問介護事業所の緊急時対応について一定の改善効果が認められるものの、サービスが提供されたのは必要回数の半数程度しかなく、利用者にとっていつでも訪問してくれる「24時間随時訪問サービス」に代わるものではないことが明らかになった。
 24時間随時訪問サービスは、いつまでも住み慣れた地域で暮らしたいという高齢者の願いをかなえ、必要な時にいつでもヘルパーが来てくれる利用者本位のサービスである。国の介護保険制度においても、「夜間対応型訪問介護」を「24時間対応型訪問介護」に拡大し、高齢者の在宅生活を心身両面から支えていける社会の実現が急がれる、と結論付けているのであるが、こういいきれるのは区における実践と成果による自信がいわしめていると感心するのである。
 (2) 事業概要と特色は、どのようなものであろうか。
 世田谷区の24時間随時訪問サービスは、「介護保険サービスである夜間対応型訪問介護」と「介護保険サービスではない昼間の随時訪問サービス」を合わせて、24時間を通して1つのコールボタンからオペレーターセンターのオペレーターに利用者が通報し、即時ヘルパーが利用者の自宅を訪問するサービスである。夜間対応型訪問事業者が、24時間を通して随時訪問サービスを提供している。
 対象者は、夜間対応型訪問介護利用者(すなわち要介護1〜5)である。
 対象期間は、夜10時から翌朝7時までを夜間対応型訪問介護(介護保険内)で対応し、朝7時から夜10時までを世田谷区独自事業(介護保険外)で対応するというものであり、安心の介護システムとなっている。
 (3) 利用状況は、どのようになっているのであろうか。
 要介護度別の登録者は、要介護度1が12%、要介護度2が29%、要介護度3が20%、要介護度4が20%、要介護度5が19%とほぼまんでんなく均等に登録されている状況である。要介護度別の実利用者は、要介護度1が1%、要介護度2が8%、要介護度3が21%、要介護度4が25%、要介護度5が45%となっており、度がすすむごとに多くなっていることが鮮明に現われている。家族構成別の構成比は、ひとり暮らし45%、夫婦のみ24%、高齢者のみ5%、その他18%、無回答8%となっている。高齢者のみの区分が、ひとり暮らし、夫婦のみの区分と、どう違うかは不明である。利用件数の推移では、昼間利用、準夜間利用ともに前年同期比で倍増の推移を示しており、早朝は微増の推移となっているとのことである。
 (4) 利用料金は、どのようになっているのだろうか。
 個人の基本料金は、月当たり1,105円である。随時訪問の場合の個人の利用料金は、介護保険制度の夜間対応では、641〜862円、世田谷区独自制度の早朝(7:00〜8:00)では、351円、昼間(8:00〜18:00)では、281円、準夜間(18:00〜22:00)では、351円の料金設定となっている。

 (5) 今後の展望と課題は、どのように見通しているのであろうか
 訪問までにかかる時間の短縮であり、ヘルパーステーションの増設と待機ヘルパーの確保が欠かせず、ステーションから利用者宅までの距離を縮めることが課題になっている。
 支給限度額と関係では、いつ利用するのか予測できない随時のサービスについて、支給限度額との関係をどう考えるかは、今後の課題であり、随時サービスの給付は、支給限度額とは別枠の上乗せを可とするのか、支給限度額には影響なしと見るのか、さらに検討を要するとしている。
 24時間随時訪問サービスの利用状況は、いつどんな時に利用したのかなどの情報は、ケアマネージャーにとっても利用者の様子やリスクの可能性、ケアプランの見直しなどの参考になり、きめ細かな報告による情報共有の仕組みづくりが今後の課題としている。
 ヘルパーのスキルアップは、利用者の不安や心理的抵抗を取り除くことなど、介護技術、接遇技術の向上が不可欠である。あわせて介護保険制度として「24時間対応型訪問介護」を実現することが必要であると結論づけているが、これは実践を通じての卓見である。


 2  千葉県野田市の公契約条例について

 (1) 趣旨
 地方公共団体が行う工事や委託事業等の契約において、一般競争入札などの入札改革が進み、低い価格による入札が増える中で、低入札価格によって下請事業者やそこに従事する労働者にしわ寄せがなされ、賃金の低下を招いている状況があり、貧困と格差の拡大、官製ワーキングプアが社会問題となっている。
 この状況を改善し、公平かつ適正な入札を通じて業務の質の確保をはかり豊かな地域社会の実現と労働者の適正な労働条件を確保するには、国による公契約に関する法整備が不可欠である。
 そこで、国にその必要性を認識させる法の整備を促すため、市では2009年(平成21年)9月に全国初となる野田市公契約条例を制定し、2010年(平成22年)4月以降に締結する契約から適用しているとのことである。
 (2) 条例規定の範囲
 条例は、市が発注する1億円以上の建設工事や、1000万円以上の施設設備の運転、保守、清掃業務の業務委託において、下請事業者も含めてその業務に従事する労働者の賃金を市が定める最低額以上に義務付けることで、労働者の適正な労働条件を確保するものである。
 適用される労働者の範囲は、労基法9条に規定する労働者で、受注者もしくは下請事業者に雇用されている者と派遣労働者である。
 (3) 条例で定める最低賃金
 条例で定める市長の定める賃金の最低額は、設計労務単価と市の一般職の職員給与を勘案し、その8割としている。条例が施行された2010年4月段階では、時給829円とされた(2009年9月時点での千葉県の最低賃金は時給728円)。
 この最低賃金を下回った場合、受注者は、下請け・孫請けなどと連帯して労働者にその差額を支払う責任を負うとしている。市は、契約の解除や損害賠償の請求ができ、事業者名の公表ができるという内容の条例になっている。
 (4) 課題が実践のなかから顕在化
 条例施行によって課題が見えてきたが、それは、最低賃金ぎりぎりだった清掃業務の賃金水準を引き上げる効果があった。
 具体的には、庁舎内の清掃業務の委託事業に直接的な効果が現われた。条例施行前の賃金は、時間給730円であったのが、施行後は、829円に引き上げられ、月額にすれば、約16,000円の賃上げとなったのである。
 同時期に実施された他の14件の事業入札に参加した事業者からは、すべての最低賃金を上回る額が示されたことからも、条例の趣旨が事業者に理解されているとの成果があったとのことである。
 あわせて、公契約条例の直接の対象となる労働者ではないが、市が直接雇用する産休や育休・病休などの事務系臨時職員、保育所や公民館などの業務員など829円を下回っていた人たちの賃金が、条例施行にともなって830円に引き上げられた。
 こうしたことは、条例適用労働者の賃上げ以上に大きなインパクトを与え、条例制定の影響を各所に広げるものとなったとの評価もあるとのことである。
 (5) 実践からの教訓を生かし条例改正
 そこで、条例改正の必要性を認識し、次のような改正に取り組んだとのことである。
ア  賃金水準は、職種によりばらつきがあるため、業務委託は、工事と同様に職種に見合った賃金基準を設定するため、その設定の際に勘案する種類を、国が業務委託の費用を算出するため、建築保全業務労務単価、市職員の給与、実勢価格等を基準に考えていきたいと提示した。
 また、予定価格が1,000万円未満の業務は、現行条例の対象対象外であることから、官製ワーキングプア解消のため、清掃業務等の実態が低賃金である業務は、予定価格が1,000万円未満のものも、条例の対象とする規定を追加したいとの提示である。
 イ  入札により受注者が変わることで従前の受注者に雇用されていた労働者が職を失ったり、仕方なくる労働条件を低下させて新しい受注者に雇用させられることがある。
 そこで、継続雇用の確保をはかるため、長期継続契約の対象を拡充したいとの意向である。
 ウ  下請事業者の適正な請負額の確保が、非常に重要である。なぜなら、請負額が低いと下請事業者は、労働者の賃金を確保することで自らの経営を圧迫することになるからである。
こうしたことから、建設業法や下請代金支払遅延防止法を遵守し、おのおのの対等な立場における合意に基づいた公正な契約としなければならないことを義務付ける規定を追加することで、下請事業者の適正な請負額の確保をはかりたいとの考え方である。
 そこで、低入札価格調査制度の拡充を念頭においているとのことである。
 (6) 今後の展望と課題
 以上のような実践と改善をふまえると、これからの課題として考えられることは、次のとおりである。
 経済大国といわれる日本で、年収200万円以下の労働者が1100万人を超え、毎年3万人を超える自殺者が12年もつづく社会の状況は異常である。派遣労働の問題をはじめ、医療や福祉などいたるところがゆがんでいる日本、まさに憲法25条が「いくつもの穴のあいたバケツ」のようにされている状態ではないであろうか。
 いま国民は、その一つひとつの穴をふさぎ、「豊かで安心して暮らすことのできる地域社会」の実現を痛切に求めている。公契約条例は、その開いた穴の一つをふさごうとするものである。
 しかし、一自治体の条例だけでは、その穴をふせぐことはできないのである。そのためには、数多くの自治体が条例制定を促進させ、国に「公契約法」を制定させることが重要である。
 野田市の条例制定は、まだできたばかりであり、新たに生まれる問題を解決しながら、「住民の税金を使っておこなわれる仕事でワーキングプアをつくらない」――そのような公契約条例に前進させるため、確実に実績を積み重ねていくことが大切であるとしている。
 先鞭をつけた野田市と市議会に熱烈なエールを送りたい。
                                     以 上

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